アクロバットのコツ

【側転 怖い】恐怖を消す考え方と練習の安全な順番

文・井藤 亘

こんにちは!アクロバット大学へようこそ。ここではバク転やバク宙などのアクロバットに関する知識をみんなでお勉強していきます。今日のテーマは「側転の怖さ」です。

レッスンでよく相談されるのが、側転が怖くてどうしても踏み切れないという悩みです。手を床につく前に止まってしまう、途中で体をひねって逃げてしまう。本人に聞くと、理由はだいたい同じです。頭から落ちる気がする。手をついた瞬間に崩れる気がする。

側転が怖いのはおかしくない

先に言っておきますが、側転を怖がるのはおかしなことではありません。体操経験のない大人でも、子どもでも、逆さまにひっくり返すという動き自体が本能的に怖いものです。これは根性やメンタルの弱さの話ではありません。

怖さの正体は、結局のところ1つです。過去に一度でも手をつくタイミングがずれたり、頭が下がりすぎて怖い思いをしたりすると、脳はその経験を覚えてしまいます。そして次に同じ動きをしようとしたとき、まだ失敗していないのに「また同じことになるかもしれない」という予測が先に出てきて、体に勝手にブレーキをかけてしまいます。体が止まるのは、実際に危険だからではなく、過去の経験を脳が勝手に予測してブロックをかけているからです。

だから「怖いのは気のせい」と片付けるのは違います。怖さには理由があります。その理由を知ることが、側転を安全に身につける最初の一歩です。

小さくやるほど危ない理由

怖いとき、人は自然と小さく、ゆっくり、中途半端にやろうとします。これが一番ケガにつながります。

側転は、勢いとスピードがあって初めて一直線に回り切れる技です。怖がって踏み切りを弱くしたり、手をつく前にスピードを落としたりすると、体が一直線に回りきる途中で止まってしまいます。その結果、肩や腕に変な体重がかかったり、バランスを崩して倒れたりします。怖いからゆっくりやったはずなのに、逆に一番不安定な体勢で止まってしまうのです。

ただし、だからといって「とにかく思い切ってやれ」というのも乱暴な話です。怖さを感じたまま勢いだけつけても、それは危険なだけです。本当に必要なのは、本人が安全だと感じられる状態を作ってから、思い切って動ける練習に切り替えていくことです。

例えば、足を高く振り上げるのが怖いなら、足を低く振り上げたまま横にジャンプする練習から始めます。倒れてしまうこと自体が怖いなら、台に手をついて足が上がりすぎないようにした状態で側転を行います。指導者の補助も、本人が安全だと感じるための大事な要素のひとつです。

つまり、「小さくやらない」ことが大事なのではなく、小さくやらなくても怖さを感じずに済む練習を選ぶことが大事なのです。中途半端な動きが一番危ないのは、側転に限った話ではありません。だからこそ、怖さを我慢させて無理に大きくやらせるのではなく、怖さそのものを感じにくい練習から段階を踏んでいくことが、結果的に一番安全な近道になります。

恐怖を消す3つのポイント

ここからは、実際にレッスンで側転の恐怖と向き合うときに意識しているポイントを3つ紹介します。前提として、これはすべて指導者がしっかり体を支え、マットなど安全な環境が整っている中で行う話です。自己流で勢いだけをつけるのは絶対にやめてください。

①体を支えてもらって「できた感覚」を先に作る

怖さの多くは「失敗する未来」を想像することから生まれます。だったら先に「できた」という成功体験を体に入れてしまうのが早道です。指導者に腰や脚を支えてもらいながら、最後まで止まらずに回り切る。この感覚を一度でも体が覚えると、予測の痛みは小さくなっていきます。

②怖いという気持ちと動きを分けて考える

「怖い」という気持ちがあっても、体は正しく動かせます。気持ちが消えるのを待ってから練習を始めようとすると、いつまでも始められません。怖いままでいいので、支えてもらいながら体を動かす。気持ちと動きは、別のものとして扱っていいのです。

③思い切りやった方が逆に安定することを体で覚える

怖いからこそ、小さく縮こまってやりがちですが、これは先ほど説明した通り一番不安定な結果を生みます。補助がある状態で、思い切って勢いをつけて回ってみる。すると、むしろ体が一直線に伸びて、安定して回り切れることに本人が気づきます。「思い切ってやった方が安全だった」という体験そのものが、恐怖に対する一番の説得材料になります。

恐怖は「大丈夫」では消えない

側転が怖い子に「大丈夫だよ」「怖がらなくていいよ」と声をかけても、恐怖はほとんど消えません。気持ちの問題として片付けようとすると、むしろ本人は分かってもらえていないと感じてしまいます。

恐怖は気持ちの力ではなく、物理的な理由で上書きするものです。脳が作った予測は、頭ごなしに否定しても取れません。少しずつ、支えてもらいながら成功を積み重ねて、実際には体が倒れないこと、手をつけば支えられることを体で確認していく。そうやって一回ずつ取り除いていかないと、恐怖はむしろ固まって強くなっていきます。

側転の練習で大事なのは、怖さをゼロにすることではありません。本人が安全だと感じられる練習を選び、そこから少しずつ本来のやり方に近づけていくことです。それが分かれば、怖いままでも体は前に進めます。

まとめ

側転の怖さは、おかしなことではありません。ただ、怖いからといって小さく、ゆっくり、中途半端にやろうとすると、体が途中で止まってしまい、かえって不安定でケガにつながりやすい体勢になります。思い切ってやった方が、結果的に安全に回り切れることが多いのです。

これはすべて、指導者がしっかり体を支え、マットなどの安全な環境が整っている中で成り立つ話です。自己流でいきなり勢いをつけるのは絶対にやめてください。

怖さは、気合いで消すものではありません。過去の経験を脳が勝手に予測してブロックをかけているだけだと理解した上で、本人が安全だと感じられる練習から少しずつ成功体験を積み重ねて上書きしていく。それが、側転を安全に身につける一番の近道です。

側転の基本からもう一度確認したい人は【側転のやり方】怖い人のための練習手順とコツを、側転の次のステップとして側宙に興味がある人は【側宙とは】やり方・コツ・練習の順番を元体操選手が解説を、自宅でも安全に練習したい人は【元体操選手が考える】マットの選び方とおすすめ商品も合わせて読んでみてください。

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