子どもの倒立を支える名古屋アクロバットスクールのコーチ

PHILOSOPHY — 指導方針

バク転ができるようになる
だけなんて、もったいない。

できるようになるまで、何か月もかかります。怖くて、何度も失敗します。その時間を、技のためだけに使ってしまうのは、もったいない。だから私たちは、その時間の中身にこだわっています。

「コツ」と「考え方」を、言葉にして渡します

子どもと並んで動きを確認するコーチ
やることを一つに決めて、同じ動きを一緒に確かめる。

アクロバットの指導は、どうしても感覚の言葉になりがちです。「もっと勢いよく」「思いきって」。でも言われた子は、何をどうすればいいのかわかりません。これだと、はじめからできる子はできて、できない子はできないままになってしまいます。

だから当教室では、技のコツを必ず言葉にして渡します。「もっと跳んで」ではなく、「大きく膝を曲げて、一気に伸ばして」。やることが一つに決まっていれば、子どもは自分で試せます。うまくいかなかったときも、どこを直せばいいのかを自分で見つけられるようになります。

言葉にするのは、コツだけではありません。なぜそうするのかという考え方も、あわせて伝えます。理由がわかっていれば、はじめて出会う技でも、自分で考えて応用できるようになるからです。

そうしているうちに、子どもは家で「今日はこれができた」と自分の言葉で話せるようになります。そこまで来たら、その子はもう自分で練習できます。

年齢ではなく、その子がいまどこにいるのかを見ます

同じマットで、それぞれの課題に取り組む子どもたち
同じ時間、同じマットでも、取り組んでいることは一人ひとり違う。

同じ学年でも、考える力が大きく違うことはよくあります。成長が早い子もいれば、ゆっくりな子もいる。どちらが優れているという話ではなく、「それぞれに育つタイミングがある」というだけです。

考える力は、学年が一つ上がったから、体が大きくなったからといって、同じように育つものではありません。

つまり同じ学年の子を集めても、同じ言葉が全員に同じようには届かない、ということです。

たとえば、成長がゆっくりな子に合わせて、手順を一つずつ細かく説明したとします。すでに自分で考えて動ける子にとっては、それは少し物足りない時間になります。逆に、考えて動ける子に合わせて要点だけを伝えると、今度は追いつけない子が出てきます。

どちらかに合わせると、どちらかが置いていかれます。

だから当教室では、できる技だけでなく、考え方の成長もあわせて見ながら、クラスを編成しています。それぞれの子が、自分にわかる言葉で、自分にわかるスピードでアクロバットに取り組めるように。

また、3か月に一度、スキルチェックの機会をつくっています。結果は一人ずつ振り返りシートにまとめ、できるようになったことと、次に取り組むことを書いてお渡ししています。ご家庭でも、お子さんの「いま」がわかるようにしたいと思っています。

考え方が違っても、たどり着く場所は同じです

私は男子新体操で9度の全国優勝を経験し、シルク・ドゥ・ソレイユの『Drawn to Life』という作品に出演しました。

2019年から2023年まで、アメリカで暮らしながら世界の舞台に立つ中で、見つけたことがあります。

集まっていたパフォーマーは、国も、育ってきた環境も、性格もバラバラでした。そこに辿り着くまでに通ってきた道も、考え方も、きっと全員違ったはずです。それでも、同じ舞台が成り立っていました。同じ技が、ちゃんとできていました。

シルク・ドゥ・ソレイユ『Drawn to Life』のキャストとスタッフの集合写真
同じ舞台に立っていた仲間たち。育った国も、通ってきた道も、みんな違いました。

これを見てしまうと、指導する側が自分の考え方に固執するのは、ずいぶん滑稽なことだと思えてきます。

やんちゃな子だからうまくいかない。ゆっくりな子だから難しい。そういう決めつけは、したくありません。その子の性格も、進み方も、そのままでいい。そのうえで、どうやって一緒にゴールまで行くかを考える。それが私たちの仕事だと思っています。

そしてもうひとつ。あの舞台で一緒だった人たちを思い返すと、一流と呼ばれる理由は、技だけではありませんでした。準備の仕方、人との関わり方、うまくいかない日の過ごし方。そういうところが揃っている人ほど、長く舞台に立ち続けていました。

技は、いつか衰えます。できなくなる日も来ます。それを知っているからこそ、技だけを渡して終わりにはしたくないと思っています。

目指しているのは、自分で決められるようになることです

それぞれが自分の課題を書き出している子どもたち
決めるのは本人。跳ぶときも、考えるときも。

では、技のほかに何を渡したいのか。ひとことで言えば、自分で決める力です。

バク転は、習い事の中でもちょっと変わった教材だと思っています。まず、怖い。そして、できるようになるまで時間がかかる。そのかわり、できた瞬間だけははっきりわかる。

怖いものを前にして、やるかやらないかを決めるのは、最後は本人です。誰も代わりに跳んであげられません。何か月もかけて、ようやく一回できる。あの瞬間に手に入るのは、技そのものよりも「自分で決めて、やりきった」という記憶のほうだと思っています。

だから私たちは、その子の成長に合わせて、少しずつ手を離していきます。技を支える補助も、こちらが練習の中身を決めることも、だんだん減らしていきます。はじめは隣について、そのうち声をかけるだけになり、最後は見ているだけになる。長い時間をかけて、そうなっていけたらと思っています。

当教室は「本気・安全・礼節」を理念に掲げています。どれも、自分で決められる人になるために必要なことだと考えています。

技ができるようになることは、もちろん嬉しいです。でも、10年後に残っていてほしいのは、そちらではありません。

片手で身体を支える井藤 亘

ITO WATARU

井藤 亘

名古屋アクロバットスクール 代表
合同会社Risshin

出身
愛知県名古屋市
競技歴
男子新体操 20年以上(3歳〜)
主な実績
全国優勝 9回
  • インターハイ 団体優勝(埼玉栄高等学校/3年時)
  • 全日本選手権 4連覇
  • 全日本学生選手権 4連覇(青森大学/4年時 主将)
海外
シルク・ドゥ・ソレイユ『Drawn to Life』パフォーマー
2019年〜2023年・アメリカ/650回以上の公演に出演
資格
中学・高等学校 第1種教員免許状

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